【狭山事件と識字交流会】2月3日、京都府部落解放センターにて、山本栄子さんと狭山事件を考える市民の会・宝塚の浜野純一さんを講師に、「狭山事件と識字」をテーマに交流集会を行いました。狭山事件を考える羽曳野・太子・藤井寺住民の会代表の竹内たつおさん、兵庫夜間中学を広げる会・事務局長の桜井克典さんをはじめ、関西各地からそうそうたる皆さんにご参加いただき、意見交換を行いました。
浜野さんからは小学校教師ならではの貴重なお話をいただきました。事件当時の上申書や供述メモで、石川さんはひらがな表記が正しくできていません。「がっこう」を「がこを」と書くなど、促音表記ができず、長音表記は誤っています。「じどうしゃしゅうりこうじょう」を「じどをじやしゆりこをじを」と書き、拗音を正しく表記できていません。それに対して、脅迫状のひらがな表記は全て正しく記載されています。漢字が多様され、当て字が使われる場合も、それぞれの漢字は正しく書けています。
「それより何より」と浜野さんが強調したのは、石川さんの上申書(1963年5月21日付)の文章には一箇所を除いて句読点がなく、その一箇所も間違っているという点です。浜野さんは小学一年生が書いた文章と六年生が書いた文章を比較し、句読点が学校教育を通してしか習得されないと指摘しました。脅迫状は句読点が正しく表記されています。
浜野さんは「この一点だけでも石川さんは無罪判決を受けるべきだ言い切れる」と話されました。事件当時の石川さんの文字には、彼と家族を貧しさのどん底に落きおとし、教育を奪った部落差別が刻印されています。ところが、裁判官たちは「社会経験の中で文字を習得することは可能だ」として、石川さんと非識字者の苦しみを切り捨て、なきものしてきました。裁判官たちに部落差別と識字について理解してもらうことが必要です。山本栄子さんは、お話の中で、定年退職してから通い始めた夜間中学で読み上げた作文を朗読してくださいました。
中学2年の時に書いた作文のテーマは「初夢」です。栄子さんの見た初夢は、「英語と韓国語がペラペラになり、夜間中学のクラスメイトと韓国語で語り合う」という夢です。亡くなったはずのクラスメイトとも手をつないで学校に通います。学ぶことは人を蹴落とすことではない。支配することでもない。人と人とが理解しあうためにこそ、学びがあるのだと栄子さんのお話は教えてくれます。
意見交換の中で、浜野さんから「栄子さんは、差別する人とも会って話をしますね。差別する人は変えられますか?」と尋ねられた栄子さんは、「人は変えられない。けれども、理解してもらうことはできると思うの」と答えられました。とてもとても大事なことを教えられました。
栄子さんはお話の最後に、リクエストに答えて、水平社宣言を朗読されました。ただし、暗唱で。とても静かな宣言でした。栄子さんの宣言は、僕らに聞かせるというよりも、自分の心に語りかけているように聞こえました。それは、今まで読んだり聞いたりしたどんな宣言よりも強く響きました。